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東京家庭裁判所 昭和50年(家)1029号 審判 1975年10月02日

本籍 福島県

住所 東京都墨田区

申立人 大川英子(仮名)

本籍 栃木県

住所 東京都小平市

事件本人 野口李一(仮名)

主文

本件申立を却下する。

理由

一  申立人は事件本人の親権を辞任することの許可を申立てた。

二  申立人は昭和四三年一二月一九日事件本人を出産した。国籍朝鮮(本国における住所済州道旧左面下道里)李順は昭和四三年一二月二七日事件本人を認知した。以上の事実は記録により認められる。事件本人の出生時同人の母である申立人が事件本人に対し親権を行使した。しかし韓国人である父が認知した子の親権者については法例第二〇条によると父の本国法による。大韓民国国籍法によれば、大韓民国の国籍を取得することにより六月内にその国籍を喪失するにいたる外国人であつて、大韓民国の国民である父が認知した者は同国の国籍を取得し(第三条の第二号)、大韓民国民法第九〇九条第一項により未成年者である子はその家にある父の親権に服する。しかしその者が大韓民国の国籍を取得した後六月経過してもその外国の国籍を喪失しないときは、右大韓民国の国籍を喪失する(第一二条第七号)。従つて本件に就いてみれば、父である李順の認知により、事件本人は昭和四三年一二月二七日大韓民国の国籍を取得し、李順が事件本人の親権者となつた。しかし記録によれば、事件本人が右昭和四三年一二月二七日から六月内に日本国籍を離脱し、これを喪失した事実はなかつたことが認められるので、事件本人は昭和四三年一二月二七日から六月の期間を経過した昭和四四年六月二七日の経過を以て韓国の国籍を喪失し、同時に同人の父李順の事件本人に対する親権も消滅し、我が国の民法上事件本人につき後見が開始した(民法第八三八条第一号)(第一一五回戸籍事務連絡協議会決議参照)。もつとも「日本人女の非嫡の子を大韓民国人が昭和四一年二月二三日に認知したがその子について日本国国籍離脱の手続がなされないまま六ヵ月を経過した場合の子の親権者につき、韓国法上子の生母が親権者である」との昭和四二年六月二三日亜北第三六号外務省アジア局長回答における見解があるものの如くであるけれども、右は韓国法上の解釈にすぎず、本件の場合日本民法上事件本人につき前掲の日に後見が開始したとの見解を左右するものではない。

三  右のとおりであるから、申立人は事件本人に対し親権を有するものではなく、従つて申立人が事件本人の親権者であることを前提とする親権辞任許可の申立はその前提を欠き理由がない。(事件本人に後見が開始している以上、後見人を選任すべき必要があることは言うを俟たない。)

よつて本件申立を却下することとし主文のとおり審判する。

(家事審判官 長利正己)

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